神戸市長田区は、古くからものづくりの街として地場産業が根付く地域。住宅と町工場が共存する昔ながらの雰囲気がただよいます。

今回お邪魔させていただいた株式会社富士高圧プロダクツさんも、住宅街のいっかくに本社を構えます。1948年に創業して以来、長田で75年以上も靴のアウトソールやインソールを作り続けてきました。

そんな富士高圧プロダクツさんが、ゴム製造の技術をサンダルなどにも展開しようと、2019年に立ち上げたのが「buntA」です。

buntAの最初の製品は、ビーチサンダル「waraji sandal」。その素材は、もともと医療用インソール用に開発したゴム素材でした。
だから「waraji sandal」を履くと、自然と5本の足指をしっかりと使う「正しい歩行」に導かれるそうです。その足裏が包み込まれる履きごこちと、足の指で地面を踏みしめられるような安定感から、高齢の方にも愛用者が多いのだそう!

waraji sandalは、機能性とデザインが評価され、2024年度グッドデザイン賞にも選ばれました。今では全国の百貨店から、ポップアップ(期間限定の出店)依頼もぞくぞくときています。

そこで今回は広報担当の佐篠さんに、「インソールの素材を作っていた富士高圧プロダクツさんが、サンダルを開発することになったわけ」や、「どうしてwaraji sandalだと、5本指を使って歩けるのか」など、いろんな疑問にお答えいただきました。
さらに、ゴムの原料からサンダルができあがるまでの貴重な製造工程も、職人さんの解説とあわせてお届けします!
医療用インソールをサンダルへ

75年以上前に、ゴム靴の生産からスタートした富士高圧プロダクツさん。靴のアウトソールやインソールの素材を作る会社として歩んできました。
なぜ、サンダルの開発をすることになったのでしょうか?
「従来の医療用インソールはとても硬くて、せっかく作っても履いてくれない患者さんが多かったそうです。そこで、長年インソールを作ってきた私たちの技術を、どうにか生かせないだろうかと考えたのが始まりでした」
そこで、試行錯誤を重ねて開発したのが「マシュマロ」という最高級ラバー。

一般的なインソールは、足裏の負担を軽減するために、衝撃を吸収する役割を担います。
ところが、マシュマロを使った医療用インソールは、衝撃の吸収と反発の連続運動である「歩行」までも助けることができるのです。
その理由は、マシュマロが、低反発と高反発、反対の特性をどちらも持っているからだそう!
このマシュマロを使った医療用のオーダーメイドインソール「mysole®」は、6,000人以上の疼痛などに悩む方々の歩行をサポートしてきました。

さらに、マシュマロを医療用インソールだけでなく、一般の人にも履いてもらえる製品にもしようと考案されたのが、waraji sandalでした。
「足指を使う歩き方をサポートする靴はどんなものかなと考えたとき、ヒントになったのは日本の“草鞋(わらじ)”だったようです。鼻緒を意識するため、足指を使用して歩くというのが、昔から実現されていた履物なんですよね」
だから、一見デザイン性に特化されているように見えるwaraji sandalですが、歩き方の改善ができ、長時間歩いても疲れにくい高機能なサンダルなんです。
そのため外反母趾に悩んでいる方や50〜60代の愛用者も多いようで…購入された方の最高年齢もお聞きしたところ、なんと、96歳だそうです!

佐篠さんも3年前からwaraji sandalを愛用しています。
「waraji sandalを履いていると、だんだんサンダルが自分の足の指の形に削れてくるんですよ。それくらい5本の指を使う歩き方になっているのだと思います」

サンダルですが、すべらず安心。
でも、ビーチサンダルは滑りやすいイメージがありますが、大丈夫なのでしょうか?

「waraji sandalのアウトソールは、国産のガラスビーズやセラミックを配合した“スノーレイン”という素材を使っています。だから名前の通り、雪や雨の日も滑りにくい。ぬれた路面でも安心して履けるんです」
さすがはアウトソールも長年開発されてきただけはありますね。機能面だけでなく安全性もしっかり追求されています。
足指を使った健康的な歩行ができて、長時間疲れない。さらには雨の日も滑らず安全と、良いことづくめのサンダル…その製造過程も気になります。
そこで製造現場にもお邪魔して、原料からサンダルができあがるまでの工程を見せていただきました。
製造工程①原料の練り合わせ
製造現場の職人さんたちは、製造工程を「パン作り」に例えながら、わかりやすく教えてくださいました。まずは材料を混ぜるところからスタート。パン作りでも材料を捏ねるところから始まりますね。
こちらがラバーの原料です。

ラバーは基本的にEVA樹脂と合成ゴムという2つの原料を練り合わせて作られます。
原料はそれぞれ数十種類もあり、組み合わせや分量は製品ごとに違うのだそうです。ちなみに富士高圧プロダクツさんでは、品質のブレが少ない国産品だけを使用しています。
続いてニーダーという大きな機械が登場。

“ゴー”という轟音とともに、ニーダーで熱と圧力をかけながら混ぜ合わせていきます。
不純物が混ざると製品が安定しないため、機械に飛び散った原料の粉まで丁寧に払っている、職人さんの姿が印象的でした。

原料が均一に混ざるよう、ニーダーの温度を120℃くらいまで上げていきます。
その日の温度や湿度によって微妙に変えなければならないニーダーの温度調整も、しっかり混ざったかも、職人さんが目視チェック。

職人さんのOKがでたら、次の工程へ移動です。
工程②発泡剤の投入

続いて、先ほど混ぜたゴムをローラーで伸ばしながら、「発泡剤」という膨らませ粉を加えていきます。
発泡剤を加えることでゴムの中に気泡ができ、独特の柔らかい触感が生まれるのだそう。パン作りでいうと、イースト(酵母)を入れる行程ですね。イーストも発泡剤も、焼いたときに生地を膨らませる役割を持ちます。
最初はローラーの摩擦でゴムが熱くなりすぎないよう、空気に触れさせて適度に冷まします。

これはカッターでゴムを切りながら、全体を冷ましているところです。
適温になったところで発泡剤を投入。もちろん製品ごとに発泡剤の分量も違います。ここでも均一に混ざったかは職人さんが目視で確認します。
工程③シート状にカット
次に、ちょうどよい大きさにカットする工程に入ります。カットするのはこちらのロール機。


製品によってゴムの厚みを変える必要があるので、ロールとロールの間隔は職人さんが手で調整します。

ロール機から出てきたシートは薄いので、一枚一枚丁寧に、職人さん2人がかりで受け取っていきます。
それでも、最初にロール機に送る1〜2枚目は、どうしてもしわになったり破れたりしてしまうのだそう。ただし破れても廃棄するのではなく、最初の練り合わせの工程に戻して再利用しているそうです。

工程④油圧プレス機で加熱
続いて、いよいよ「焼き」の工程に進みます。
加熱によって発泡剤からガスが発生し、ゴムに気泡ができることで、柔らかい触感が生まれます。パンも焼くことでなかの空気が膨らみ、ふわふわの触感が生まれますよね。それと同じなのだとか。
焼くのはこちらの巨大な油圧プレス機。

このプレス機の一段一段に、先ほどカットした薄いシートを何枚か重ねて投入し、加熱していきます。

こちらが焼く前のシートの状態。
プレス機で加熱するとき、機械の中の温度は160℃前後まで上昇。プレス機周辺にまで熱気が立ちこめます。

「プレス機の近くは、夏場50℃近くになりますよ〜」とおっしゃる職人さん。
そんなプレス機の前で、気温や湿度によって焼く時間を調整したり、焼き上がると17キロくらいになる生地を運んだりしているそう!
焼きあがると、プレス機の中で膨らんでいた生地が外に飛び出します。「パンッ」という音と同時にラバーが飛び出す瞬間は迫力満点。
先ほどまで薄いシート上だった素材が熱によって膨らみ何倍もの厚みになって出てきました!

空気の層をたくさん含み、重みも増したラバーを職人さんふたりがかりで運びます。
気温や湿度、生地の柔らかさを見ながら焼時間を調整する繊細な技術と、熱い空間で重いものを運ぶ体力、両方なければつとまらないお仕事だと感じました。

こちらが焼いた後のゴムの状態です。


焼く前のシートとの厚みの違いに驚きました。加熱してできるゴムの中の気泡が、サンダルのふわふわ触感の秘密なのですね!
小型プレス機で試作を繰り返す

大型の油圧プレス機の隣に、ちょこんと佇んでいた小さなプレス機。生地の焼き時間を変えるときには、この小型プレス機を使い少量の生地でテストをするそうです。

新製品の開発も、小型プレス機で行っているのだとか。buntA製品の開発を始めたばかりの頃は、1つの製品に3年くらいかけて、何度も何度も原料や焼時間の調整をしたのだそうです。

聞いているだけでも気が遠くなるような作業です。でも熱心に、そして楽しそうにお話される職人さんの様子から、ものづくりが本当にお好きなことが伝わってきました。
開発は大変そうですが、職人さんの表情からは新しいものを生み出す楽しさの方が全然大きいんだろうなと感じます。
今は、「屋内でも土の上で素足で遊べるような環境を作れないか」という社長さんのアイデアから、土を練り込んだラバーや、建設会社さんの要望で、建築用に燃えにくい壁材などの開発にも取り組んでおられるそうです。
今後のラバー開発にも注目ですね!
工程⑤指定の厚みにゴムをスライス
焼きあがったゴムが冷めたら、製品ごとに指定された厚みにスライスします。スライスに使うのは、ロール状の刃が高速回転するこちらの機械。


スライスする前には、製品ごとに指定された厚みを機械に登録する必要があります。
ところが素材や気温、湿度によってゴムの硬さが変わるので、なかなか登録した厚み通りには仕上がりません。

そのためゴムの硬さをみながら、職人さんが機械を0.1ミリ単位で設定を微調整しているのだとか!
「この技術を習得するのに6年くらいかかりました」とおっしゃるのは、スライスを担当しているこの道8年目の職人さん。

スライスされたゴムの厚みも、1枚ずつチェック。多い時には1日数百枚ものゴムをスライスするそうです。

工程⑥サンダルの形へカット・鼻緒付けして完成へ
スライスされたゴムを専用の機械でサンダルの形へカットします。完成に近づいてきましたね。

もちろん製品によって、切り出しの手順や型が違います。鼻緒や組紐の穴を完全に貫通させるか一部を残すかといった細かい設計によって、裁断する機械も変わるのだそうです。

続く鼻緒の取り付け作業はすべて手作業。ゴムに傷がつかないように細心の注意を払いながら、一つ一つ丁寧に装着していきます。

サンダルごとに何種類も鼻緒があります。

この作業は職人さんだけでなく、店舗スタッフの方からアルバイトの方まで全員がマスターしているそうです。会社全員で製品を作り上げていこうという熱意が垣間見えました。


ちなみにwaraji sandalの鼻緒は、ミシンで手縫いした組紐を利用しています。組紐に芯材を入れてサンダルに縫い付ける工程は、できる職人さんが1人しかいないほど技術力が必要な作業。鼻緒の長さを1ミリ単位で調整しながら縫い付けるそうです。

この組紐は、かかとに引っ掛けて足をホールドする方法と、甲に乗せてぞうりのように足を入れる方法の2パターンで履くことができます。鼻緒が気になる人には、このように甲に載せて履くのがおすすめだそうです。

製造現場で一番驚いたのは、各工程に機械が対応しきれないほど繊細な調整があること、それを職人さんがカバーをされていることです。
足が守られるような「buntA」のサンダルの履き心地は、職人さんの熟練の技と細やかで丁寧な心遣いによって作られていることがわかりました。
サステナブルな製品開発が作る魅力
実はラバーの種類は、waraji sandalに使用されている「マシュマロ」だけではありません。
「マシュマロ」のほかにも、マシュマロの普及版である「モチーズ」、軽くて水に強くキラキラの断面が特徴的な「カステラ」、最も柔らかい肌触りが魅力の「クリーム」の合計4種類を展開しています。

それぞれの特徴を生かしたサンダル、フィットネスやレジャーに使えるマット、ラバーバックなどを開発しています。
その中でも特に目を引かれたのが、「b–pac」です。夜の空に星が瞬くような素敵なデザインですよね。


「このb-pacは、ゴムで製品を作ったときに出た端材を細かく砕いて練り込んで作っています。他に端材を利用した製品としては、子どもがぶつかったり舐めたりしても安心なラバーのブロック(bRock)もあるんです」と、北篠さん。

今後は、子ども用のサンダルにも注力していく予定だそうです。
ちなみに、製品の耐久性にもかなり力を入れていて、佐篠さんが3年以上愛用するwaraji sandalもまだまだ履ける状態なのだとか。もし壊れても、修理をしてもらえるのはうれしいですね。
少しでも長く使ってもらう。少しでも廃棄を減らして資源を最大限活用する。そのような姿勢こそが、buntAの魅力的な製品開発に繋がっていると感じました。
「buntaro®」から「buntA」へ

そんなbuntAですが、2024年1月に「buntaro®」から「buntA」にブランド名を変更しています。
北篠さんによると、「もともと創業者の名前である“文太郎”をブランド名にしていましたが、海外展開を見据えて、外国人にも親しみやすく発音しやすい“buntA”へと名称を変えた」のだそうです。
少人数での運営のため、宣伝まであまり手が回っていない点が課題といいますが、いまでも、ギフトショーや百貨店の期間限定出店などに引っ張りだこです。
とにかく製造現場のデジタル化、自動化が叫ばれている現在。ですが富士高圧プロダクツさんの製造現場では、人の手が入ることで、より繊細なものづくりが実現されています。
富士高圧プロダクツの職人さんだからこそ作れるラバー製品の魅力は、日本にとどまらず世界に広まっていくと思います。
佐篠さんはじめ、製造現場の職人のみなさん、スタッフのみなさん、長時間にわたり取材にご協力いただきありがとうございました。












