イシケン

イシケン ロゴ

創業1925年、広島県福山市(備後)で寝具づくりを続けるイシケン株式会社 洗える人工羽毛〈AIRFLAKE®〉を中心に、寝具・防災・ベビー・ペット用品まで幅広い製品を製造しています。「工場から、安心な眠りをデザインする。」をコンセプトに、清潔・快適・長く使えるものづくりを通して、人と社会にやさしく寄り添う製品をお届けしています。




人工羽毛「エアーフレイク®」はなぜ生まれた?
「サメのように泳ぎ続ける」イシケンのものづくり

「ジブリの映画に出てきそうでしょ」

イシケン株式会社の工場で機械を案内する石川社長

イシケン株式会社の石川社長に案内されて工場へ入ると、木と金属でできている年季の入った大きな機械が、ガシャンガシャンと音を立てて動いています。

年季の入った木と金属の機械

広島県福山市で、長年にわたり寝具づくりを続けてきたイシケン。

この工場で作られているのが、人工羽毛「エアーフレイク®」を使った製品の数々です。

そのひとつ、「着たまま動ける寝袋」を試着した瞬間、「軽いですね!」と思わず声が出ました。

エアーフレイクを使った着たまま動ける寝袋

体をすっぽり包む大きさなのに、重さがほとんど気になりません。

子どものサッカー観戦で寒さに震えることが多いので、「これがあったら暖かそう」と、使う場面まで想像していました。

けれど、この軽い寝袋が生まれるまでの話を聞くと、約13年にもわたる素材開発と、その後も続く試行錯誤があったことが分かりました。

昔ながらの寝具会社から、なぜ人工羽毛や「着る寝袋」のような新しいものが次々と生まれているのでしょうか。

工場を見せていただきながら、石川社長にお話を伺いました。

羽毛でも、普通のポリエステルでもない「もう一つの選択肢」

人工羽毛「エアーフレイク」

人工羽毛「エアーフレイク®」

「極端に言うと、糸。糸を編んでいるような構造なんです」

人工羽毛「エアーフレイク®」がどのような素材なのかを伺うと、石川社長は、そのように説明してくださいました。

一般的なポリエステル綿は、短い繊維をほぐし、ならして重ねたもの。

一方、エアーフレイク®は、細くしなやかな繊維がランダムにカールし、立体的にからみあってつながった構造になっているそうです。

繊維の間に空気を含んでふくらみやすく、隙間ができるため、蒸れにくい。さらに、洗っても中の繊維が切れにくく、乾きやすいのも特徴とのこと。

エアーフレイクの特徴

【エアーフレイク®の特徴】 出典:イシケン株式会社

「天然のダウンは、進化によって、ふわふわとしたあの羽毛の形状になっているんですよね。本当に素晴らしいと思うし、リスペクトしています。ただ、お客様が他の選択肢も選べるといいよね、と」

羽毛を選びたい人がいる一方で、洗いやすさを求める人、ホコリを気にする人、アレルギーなどで羽毛を使えない人などもいる。

「実際に見てもらい、自分に必要だと思ったものを使っていただけたらと思っています」

それでは、なぜイシケンは長い年月をかけて、羽毛でもポリエステルでもない「もう一つの選択肢」を作ったのでしょうか。

羽毛が入ってこない。それなら、自分たちで作ろう

きっかけは、会社を揺るがすような出来事でした。

「2004年ごろ、鳥インフルエンザが流行した影響で、海外から羽毛が入ってこなくなったんですよ」

当時、日本で使われる羽毛の多くは、海外からの輸入に頼っていました。そうしたなか、イシケンでは、羽毛を使う製品が売上の半分以上を占めていたそうです。

石川社長の記憶では、羽毛がなかなか手に入らない状態が、半年以上も続いたとのこと。

「そんなに止まりましたか」
思わず聞き返してしまいました。

なんとか手に入る羽毛も値上がりしたため、高い原料を仕入れて製品にしながら、しのいでいたといいます。

鳥インフルエンザの流行を伝える新聞記事

出典:イシケン株式会社

状況が少し落ち着いてきた頃、石川社長に、一つの疑問が生まれました。

「自社の売上を大きく支える製品の原料を、海外からの供給に頼ったままでいるのは違うんじゃないか、と思ったんです」

同じことが再び起きても大丈夫なように、自分たちで新たな素材を作れないだろうか。

そう考えて、以前から付き合いのあった繊維メーカーのクラボウ(倉敷紡績株式会社)に相談し、羽毛に代わる素材の開発が始まったのです。

……とはいえ、今までなかったものを新たに作り出すのは、簡単ではありません。

「目指す形があれば、逆算して作り方を考えられますが、そもそも何が正解なのかすら分からなくて」

手探りで試行錯誤を重ね、約5年かけて、布団のカバーに風で吹き込める素材にたどり着きました。

しかし、この素材では、布団が十分にふんわりしなかったそうです。

「これでは人工羽毛といえない。見かけだけじゃないか」

その後もさらに、構造や原料を変えながら改良を続けました。

エアーフレイク開発の過程で作られた繊維

出典:イシケン株式会社

そして、開発を始めてから、トータルで約13年。ようやく納得できる人工羽毛が完成しました。

「13年もかかっているんですね!」と驚くと、石川社長が続けました。

「ただ、そこからがスタートですから。中に入れる素材ができただけです」

どれだけ良いものができても、その存在を誰も知らなければ、選んでもらえません。

では、どうやって多くの人にエアーフレイク®の存在を知ってもらい、使ってもらうのか。

イシケンの試行錯誤は、「どう作るか」から「どう届けるか」へ移っていきました。

誰も知らない素材を、どうやって知ってもらう?

手のひらにのせたふわふわのエアーフレイク

出典:イシケン株式会社

完成当初、エアーフレイク®を使った商品を取引先へ持っていくと、返ってきたのは次のような反応でした。

「高い! 羽毛でいいのでは」

すでに広く知られている羽毛は、「軽い」「暖かい」など、多くの人がどのようなものかイメージできます。

一方、当時の「エアーフレイク®」は、まったく新しい素材だったため、どのようなものか誰も知りません。

どこが良いのか、なぜこの価格なのかを、一から説明しなければなりませんでした。

さらに、自社のオンラインショップに製品を並べても、「エアーフレイク®」という言葉そのものを知らなければ、検索してもらうこともできないのです。

「まだ知られていない素材の製品でも、お客様に偶然見つけてもらえる場所はないか」

そう考えて目を向けたのが、ふるさと納税でした。

まずは福山市役所へ相談に行き、返礼品にするために必要だった「福山ブランド認定」を2019年に取得。

福山ブランド認定の盾

そして2019年、福山市の返礼品として出品すると、初年度の売上は約700万円を超える結果になりました。

「初年度からですか!?」

驚いて聞くと、「そうです。『これはいけるかも』と、可能性を感じましたね」と、石川社長。

同年、さらにクラウドファンディングにも挑戦すると、2019年から2024年の間に終了したプロジェクトの合計だけでも、約2,300万円の応援購入が集まりました。

初めてのクラウドファンディングのプロジェクトページ

初めてのクラウドファンディング 出典:イシケン株式会社

「こんなニーズがあるんだ。すごいわ!」と、社長自身も反響に驚いたそうです。

想定していなかった人が、エアーフレイク®を求めていた

エアーフレイクを使った掛け布団

出典:イシケン株式会社

エアーフレイク®を作った当初、イシケンでは、ホコリやアレルギーを気にする方や、子どものいる家庭に喜ばれるのではないかと考えていたそうです。

ところが、販売を続けるうちに、思いがけない人たちから選ばれていることが分かってきました。

「今、お客様で一番多いのは、ご年配の方なんですよ」

石川社長によると、羽毛アレルギーなどで、長年愛用していた羽毛布団を使えなくなった方が、代わりの寝具を探して来られることが多いそうです。

ずっと良い羽毛布団を使ってきた方のなかには、一般的な素材の洗える布団では、寝心地に物足りなさを感じる方もいるとのこと。

「そういう方にとっては、本当に助かる選択肢なんですね」

そうお伝えすると、石川社長は、「お客様が喜ばれる声を聞くと、やっててよかった、と思いますね」とうなずいておられました。

工場でエアーフレイクを広げる様子

この取材の前日にも、以前購入した方から、

「すごく良かったから、今度は別の人にも布団を贈りたい」

と電話があったそうです。

使い方は、「お客様」が考えてくれる

さらにお話を聞いていると、石川社長から印象的な言葉が出てきました。

「使い方って、お客様が考えてくれるんですよ」

イシケンが、完成品だけでなく「素材」を作ることにこだわった理由も、そこにありました。

たとえば、「布団」という完成品は、用途がほぼ決まっています。

しかし「素材」であれば、デザイナーやプロデューサー、ほかのメーカーといった「お客様」から、「こういうものにも使えるんじゃない?」と、新たな使い方を提案してもらえたり、それぞれの商品に取り入れてもらったりすることもできます。

「その無限大の可能性に賭けた感じですね」

実際に、エアーフレイク®の使い道は、当初想定していたものから少しずつ広がっていきました。

クラウドファンディングでの反響をきっかけに、エアーフレイク®を使った寝袋なども生まれています。

エアーフレイクを使った着る寝袋 ZUBORA

出典:イシケン株式会社

この寝袋は、防寒着のように着るだけでなく、そのまま寝ることもでき、災害時には着たままで移動もできます。

「うちが作っているものって、日常やアウトドア、災害時など、場面を問わずに同じものを使える『フェーズフリー』なんだな、と、後から気づいたんですよ」

最初から「フェーズフリーの商品を作ろう」と考えていたわけではなく、お客様からのアイデアや反応から新たな価値を見つけた、という話に面白さを感じました。

現在は、エアーフレイク®の軽さや洗いやすさを生かし、ペット用品への活用も考えているそうです。

そして、外からの声によって新たな価値が見えてきたのは、エアーフレイク®だけではありませんでした。

「俺たち、こんなこともできるじゃん」外から気づかされた自社の強み

キルティングの機械

「自社の強みは、社内にいるだけでは気づきにくい」

そう考えた石川社長は、福山商工会議所の勉強会などに参加し、デザイナーや外部の方と一緒に、自社の技術や商品の可能性を考える機会も作っているそうです。

そのようななか、外部の方から提案されたのが、寝具に使ってきたキルティングの技術で革を縫ってみることでした。

「最初は、すごい無茶ぶりのようなことを言うな、と思いましたよ(笑)」

それでも試行錯誤してみると、革にも曲線や複雑な模様を縫えたのです。

「俺たちって、こういうデザインまでできるじゃんって、気づかせてもらったんですよね」

キルティングで縫われた製品

ただ、アイデアが生まれたとしても、実現できる技術がないと形にはできません。

なぜイシケンは、アイデアをすぐ形にできるのでしょうか。

「1から最後まで」作れるから、すぐに試せる

イシケンの工場内

石川社長に工場を案内してもらいました。

「イシケンの強みは、最初から最後まで自社で作れることなんですよ」

最初に見せていただいたのは、布団の中に入れる一般的なポリエステル綿を作る工程です。

「原料のポリエステルは、このように細い繊維が縮れてからみあった状態で届くんですよ」

縮れてからみあった原料のポリエステル繊維

縮れた繊維を機械でほぐし、多くの針で繊維をならしながら、薄い層にしていくそうです。

縮れた繊維を機械でほぐす工程

薄い層にしたものを何枚も重ねていくと、布団の中に入れるふっくらとした中綿になります。

多くの針で繊維をならし薄い層にする機械

縮れたかたまりだった原料が、目の前でふわふわとした中綿へ変わっていく様子に驚きました。

こんなにふくらむのですね。

ふわふわになった中綿

一方、エアーフレイク®を使った製品では、クラボウから届いたエアーフレイク®を、イシケンの工場で、布団や寝袋に仕立てていきます。

何枚も重ねてふっくらとした中綿

石川社長によると、布団用などにあらかじめ縫製された、袋状の「側(がわ)」を仕入れ、それに中材を入れて商品にする方法もあるそうです。

しかし、イシケンでは、生地の仕入れや裁断から、縫製、中材を入れる工程、キルティング、仕上げまで、すべての工程を自社で行っています。

だからこそ、

「もう少し大きいサイズにできる?」
「もうちょっとボリュームが欲しい」

といった相談にも、自社で調整しながら対応できるのだそうです。

「すべて自社で作られているから、細かなオーダーにも対応できるんですね」と伝えると、

「僕らにとっては、もともと1から全部作っているので、サイズを変えるのも『オーダー』という感覚はないですね」

とのこと。

なかなかできないことを、当たり前のように話されていて驚きました。

キルティングの機械で布団を縫う様子

「この辺にある商品は、大体この1台で全部縫っていますよ」

次に石川社長が説明してくださったのは、大きなキルティングの機械です。

模様をプログラムし、ベビー用の布団から大きな寝袋など、大小さまざまな製品を作っているとのこと。

もちろん、機械に任せるだけで、きれいに仕上がるわけではありません。

たとえば、袋の中に入れたエアーフレイク®は、そのままだと運んでいるうちに中で動いて、片寄ってしまいます。

そこで、キルティングの前には、中材が端まで行き渡るよう人の手で整えているそうです。

中材が端まで行き渡るよう手で整える様子

また、薄く伸びやすい生地を縫うときは、速度を上げると生地を機械が噛んでしまうため、縫う箇所に合わせてゆっくり縫い進めているとのこと。

薄い生地をミシンでゆっくり縫う様子

敷布団の周囲を仕上げる工程では、布や中材を整え、引っ張り具合を調整しながら縫っていくそう。

「カーブのところの出来が腕の見せどころなんです」

敷布団の周囲を縫って仕上げる工程

一方、中材を機械で一定量ずつ入れていく工程は、「職人じゃなくてもできますよ」と、実際に見せてくださいました。

中材を機械で一定量ずつ入れる工程

機械に任せられるところは機械に任せ、人の手が必要なところは長年培ってきた技術を生かす。

生地から仕上げまで自社でできるからこそ、「こんなものを作れない?」という声にも、自分たちの工場で試しながら形にしていけるのですね。

サメのように泳ぎ続ける

イシケンの製品が並ぶ展示コーナー

約13年かけて人工羽毛を開発し、ふるさと納税やクラウドファンディングで届け方を探す。
その後は、寝袋や革へのキルティング、さらにはペット用品への活用にも取り組む。

「開発へのパワーがすごいですね。どんどん新しいものが出てきて」

思わずそう伝えると、石川社長から返ってきたのは、思いがけない言葉でした。

「サメみたいなもんなんですよね。止まったら死ぬから。サメはずっと泳がないとあかんでしょ」

さまざまな可能性やアイデアを試し、反応があったところを伸ばしていく。その背景には、「一つだけに賭けるのは怖すぎて」という思いもあるそうです。

キッズデザイン賞と福山ブランド認定の盾

イシケンが動き続ける背景には、国内でものを作り続ける難しさもあるといいます。

石川社長によると、羽毛布団の場合、海外で縫製された「側」を使い、国内で中材を入れて仕上げた商品も「日本製」とされるケースがあるそうです。

一方、イシケンでは、生地の裁断から縫製、中材を入れる工程、仕上げまでを自社で行っています。

同じ「日本製」と書かれていても、そこにかかっている工程は同じではありません。けれど、完成した商品を見ただけでは、その違いはなかなか伝わりにくい。

「だから、実際に使ってもらって、『これなら、この価格になるよね』って納得してもらいたいんです」

工場で作業する石川社長

そして、もう一つ難しいのが、「必要としてくれる人と、どう出会うか」です。

「たとえば機械を増やして、1日100枚を楽に縫えるようになったとしても、『それをどこで売るの?』ってことなんですよ」

作る力があっても、それだけでは続けていけません。どこで、誰に必要としてもらえるのか、そこまで考えながら、作るものや届ける先を探し続けている。

以前、石川社長が大学で話をしたときのこと。

学生から、「どのような思いで経営されているのですか?」と聞かれたそうです。

「そのときは、『いや、生き残るのが精一杯なんだけど』って答えました。かっこいい言葉は返せないですよ」

そう言って笑った社長の言葉が、印象に残りました。

「やっぱりいいよね」と納得してもらえるように

エアーフレイクの布団で目覚める女性

石川社長が製品を届けるうえで大切にしているのが、お客様に納得して買ってもらうことです。

数万円する布団を選ぶ際、店頭で少し掛けてみただけでは、一晩寝たときの心地よさまでは分かりません。

「ゴルフクラブなら試打できるし、靴であれば履いて確認できる。でも布団は実際に寝てみないと分からないでしょ」

イシケンでは、地域で布団のレンタルを行うほか、掛け布団を自宅に送り、試してもらう取り組みも行っています。

「実際に寝られるのは、価値がありますね」

と伝えると、

「お客さんに無理強いはしたくないんですよね。結果としてうちのが売れたら一番嬉しいんだけど(笑)」

と石川社長。

「お客様が選べるようにしたい」と話されていた言葉を思い出しました。

「軽い」の向こうにあったもの

イシケン株式会社の社屋

取材のはじめに、寝袋を着て感じたのは、シンプルに「軽い!」という驚きでした。

けれど、工場を歩きながらお話を聞くなかで、その軽さの向こうに、長年の試行錯誤があったことを知りました。

長年培ってきた技術を土台にしながら、必要とされる場所を探して「泳ぎ続ける」イシケン。

寒い日のサッカー観戦で、この一着を着たとき、軽さや暖かさを感じながら、工場の風景と石川社長の言葉も思い出しそうです。

イシケン株式会社 石川社長

イシケンの商品一覧

















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