それぞれの " ものがたり "

「グラスコード」


ものがたり  ooo グラスコード 日本いいもの屋



今年も誕生日が近づいてきた、少し遠くに住む、母の誕生日が。

これまで何十回と渡した、母への誕生日プレゼントだけど

物を大事にする母が、ちゃんと使ってくれているものはいくつあるだろう?


小さい頃贈った母の日のお花は、毎年食卓に飾ってくれていたけど、

還暦祝いに兄妹からだよと奮発した漆器は食器棚にしまい込んだまま。

おしゃれなお財布も何度か選んだけれど、そのうち数個は箱から出してもいないらしい。


「だって、まだ前のが使えるから」

それがお決まりの母の言葉、

母への贈り物は本当に難しい。


今年の誕生日は週末なので、兄家族はみんな揃って、母を食事に連れていくらしい。

『おまえも来る?』

やりとりの途中、半分冗談だろうけど、兄がLINEで聞いてきた。

『なんの節目でもないのに行かんよ!金曜日は忙しい』

と断った。


なんの節目でもないって自分の言葉に

誕生日に特別、特別じゃない、なんてことがあるのかなと考えこんでしまった。

でもまだまだとても死ぬような歳でもないし、やっぱり「ただの誕生日」としか思えない。


何が欲しいか聞いてそれをそのまま買って渡そうかと母に久しぶりに電話してみた。

最初の電話は案の定出なくて、しばらくして母から電話がかかってきた。

「整骨院に行っとったんよ。もー肩が凝って肩が凝って」

お盆に帰らなかったことを言われるかな、とチラッと頭をよぎったけれど、それは何も言われなかった。

「お兄ちゃんたちとご飯行くとき、一緒に行けんから、何か送ろうかなって」

「この歳で、なーんもいらんよ」

去年もこんな会話をしなかったっけ、と思い出しながら話を続けた。

「じゃあ勝手に選ぶよ、使ってよ」

「はーい、ありがとう。安いのでいいよ、なんでも嬉しいわ」


結婚したり、子どもが生まれたり、二人目が生まれたりする兄と違って

わたしは相変わらずの一人暮らしで、十年前から何も変わらない。

変わらないことを、母は何も言わない。

その十年の間に、母は常にメガネをかけるようになり、白髪が倍以上になった。

出かけるときも飾りっ気がなくて、肩が凝るからとアクセサリーもつけない。

でも、昔からそうではなかったか?母がアクセサリーをつけていた姿が思い浮かばない。


「あ」


思い出した。昔の母。

そして今年のプレゼントを思いついた。


母は昔から肩が凝るのが嫌で、重いコートやネックレスが苦手なんだった。

わたしも同じ理由で、重いコートが嫌いだし、ネックレスは滅多につけない。

でも、ポケットに忍ばせたハンカチには、優しい色で刺繍飾りが入っていたりする。


スマホを開いて、イメージしたものを探す。


軽くて、きれいな、眼鏡用のストラップがもしもあったら。

それは今の母にぴったりなプレゼントになるかもしれない。

つけてないくらいに軽くて、気持ちが華やぐような優しいきれいな色の。


「これいいかも」


とうとう、わたしは見つけた。たった六グラムのグラスコード。

今の母にあげたい物、これならすぐ開けて、使ってくれるかも。

いや、すぐに、使ってもらおう。


そして注文したグラスコードが届いた。

グラスコードの包みを手に乗せてしげしげと眺めているうちに気が変わり、

わたしは、兄に急いでLINEした。

『金曜日、ご飯、わたしも行く!いい?』

兄からはスタンプだけで返事が来た。ピコン、ピコン。

『やっぱり!』『了解!』


そういえばいつかの誕生日も、「ただの誕生日」なのに、会いに帰ったんじゃなかったっけ。

まぁいいか、プレゼントは予算内だし、浮いたお金で会いに行こう。

そして、すぐにつけてね、って、直接言って、「ただの誕生日」を一緒に祝おう。










ものがたりに登場する商品


グラスコード ooo/トリプルオゥ

グラスコード
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