それぞれの " ものがたり "

『色漆の抹茶碗』


色漆の抹茶碗 chanto



『美味しいチャイで温まってね、おばぁは気に入るかな』

旅好きな叔父からのおみやげの中に、茶色い粉が入っていた。

メッセージと一緒に送られてきたそれは、ティーマサラというスパイスだそう。

居間では、先に夕飯を食べ終わったおばぁちゃんが、

こたつに入って食後のお茶を待っている。

『作り方です。用意するのは、牛乳、生姜、紅茶の葉、あとは砂糖と黒胡椒です』

紅茶の葉って、なんでもいいのかな。

小鍋に牛乳を沸かして、たっぷりの砂糖とおろしたしょうがを入れる。

それから棚にあった紅茶の葉をざっくりと大さじ1杯。

「地震雷、火事、親爺!」

おばぁちゃんがテレビに向かって、クイズの答えを言い放つ。

自信がある答えのときほど、声は大きい。

クツクツクツ。

牛乳が吹きこぼれないように、火を小さくして紅茶の葉が広がるのを待つ。

途中でティーマサラを入れて、茶葉を漉しながらお椀に注いで、黒胡椒で仕上げる。

しばらく声が聞こえないと思って居間を覗いたら、出題は英語の問題だった。

いい香り。もうちょっと入れてもいいみたい。

最後にもう一度、ティーマサラをふりかけた。

「ばぁちゃん、おじちゃんから送ってきたお茶だよ」

いつものように、おばぁちゃんが両手で抹茶碗を持つ。

まるで、カフェオレボウルのように。

ふぅふぅふぅと吹き掛けてずずず、とすすって、おばぁちゃんは言う。

「ピリッとして変わった味だね、今日のお茶は何?」

「マサラチャイだよ。おじちゃんが送ってきたんだよ、気に入らなかったらおじちゃんに言って」

「でもおまえが淹れたんだろう」

両手を添えて、お椀越しにおばぁちゃんが笑う。

「変わった味もたまにはいいね」





ものがたりに登場する商品





色漆の抹茶碗




ページトップへ