それぞれの " ものがたり "

『木のルームシューズ ツーピース』


水鳥工業 木のルームシューズ「ツーピース」  日本いいもの屋



暑い暑いと言っても、普段暮らす街と比べるとなんだか涼しい。

最後に実家に帰ってきたのはいつだっけ。

ぼんやりと、1時間に1本しかないバスを待ちながら考える。


「お盆やけんね、ルートの変わっとって、病院前には停まらんとけど、よか?」

訛り混じりで話す運転手が、乗車口から首を突っ込んだ年寄りに、繰り替えし説明している。

窓を開けたバスに揺られながら、右手に広がる山を見る。

じきにバスが最寄りのバス停に停まった。

そこには、犬を連れた母がいた。


その大きさに驚いた。


「大きくなっとる」

「そがんやろ、見せようて思って連れてきた」


ー小さくなっとる。

先に思ったのは、口に出したのと逆のことだった。

大きくなった犬と対照的に、母は。


結局会話はそれだけで、前後に並んで長い坂を下って、ようやく家に着く。

外観は周りと似たような古い家だけど、年をとった母仕様に中を改装したのだ。

ああそうか、改装が終わって以来だから、4年ぶりの帰省か。


玄関に部屋履きが並べられている。小さいのと、大きいの。

「俺が使ってよかと?」

「そがん大きか部屋履き、あんたしか使う人おらんやろもん」

足を収めると、初めて履くのに足に馴染んで、踏み出すと床に吸い付いて歩きやすい。


『ゆっくりしていってね』

えらく上等な部屋履きが、不器用な母の代わりに言っている気がした。


「こい歩きやすかとよ」

玄関脇からリビングまで伸びる手すりに軽く触れ、母が歩を進めながら言う。

そうだ、まだまだ。手すりに頼るほどには、母はまだまだ老いてないんだ。


「こいからずっと履くことになるて思うし、よかもん買うてくれてありがとう」


仕事の都合で、来年辺りこっちに戻ってくることになりそうだと、話すのは今夜にしようかな。






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木のルームシューズ 「ツーピース」




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