ブランド紹介
タダフサ
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職人の手仕事にこだわる新潟県三条市の庖丁メーカー。「基本の3本、次の1本」をコンセプトにした「庖丁工房タダフサ」をはじめ、プロ料理人用・家庭用・蕎麦切り庖丁など幅広い包丁/刃物を製造販売しています。 |
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タダフサ取材記
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毎日の料理に欠かせない、キッチン道具。なかでも包丁は、繊細な日本の食文化を支える道具として重要視され、昔から各地でさまざまな種類が製造されてきました。特に“日本三大刃物産地”のひとつとして有名なのが、新潟県三条市です。 今回は、この地で昔から受け継がれてきた鍛冶の技術を生かして、本格派の包丁を作り続ける「株式会社タダフサ」にお邪魔しました。 お話をお伺いしたのは、代表取締役社長の曽根忠幸さん(左)、番頭の大澤真輝さん(右)です。 タダフサが手掛ける『包丁工房タダフサ』シリーズでは、「まずこれだけ揃えれば充分」という“基本の3本”(パン切り包丁、万能包丁 三徳、万能包丁 ペティ)を提案しています。 「パン切り包丁」は、先端だけに波刃をあしらった独特のデザイン。この波刃でパンに切れ目を入れてから、まっすぐな刃でスライドすれば、パンをつぶさずキレイに切ることができます。 「万能包丁 三徳」は、肉・魚・野菜といった幅広い食材に対応でき、家庭のキッチンで重宝する存在に。 小回りが利く「万能包丁 ペティ」は、果物の皮むきや小さな野菜のカットなど細かい作業に最適。 刃の部分は、よく切れて錆びにくい「SLD鋼」をステンレスで挟んだ三層構造。するどい切れ味が特長です。丸みを帯びた優しい雰囲気のハンドルは、タダフサさんの特許「抗菌炭化木」が使われており、衛生的に使えます。 これら“基本の3本”のほか、料理の腕が上がったら揃えていきたい“次の1本”として牛刀や出刃などを4種類展開しており、『包丁工房タダフサ』のブランド全体では、7種類の包丁が揃います。 今回の取材では、包丁に関することはもちろん、国内・海外におけるブランディングの違いから、モノ作りの産地として未来を見据えた動きまで、幅広い視点でお話をお伺いしてきました。包丁の魅力とともに、タダフサさんの企業としての考え方やモノ作りに対する熱い想いなどを、みなさまにお届けできると幸いです。 決して平坦ではなかった道のり 株式会社タダフサは、1948年に初代(現社長・曽根さんの祖父)が独立創業したのがはじまり。もともとは、漁業用刃物を中心に手掛けており、その後、家庭用包丁や本職用包丁などを製造するようになりました。 「実は『包丁工房タダフサ』を作る前は、ずっと業績が良くなかったんですよ。僕が会社に入ったのが今から22年前なんですけど、バブルが崩壊して、リーマンショックもあって・・・」と語る曽根さん。 特に、タダフサのルーツである漁業用刃物は、創業当時からずっと作り続けて安定した売上があったのですが、2011年の3月、突然大きく落ちこんでしまいます。 原因は・・・戦後最大の自然災害となった、あの、東日本大震災。 「漁業用刃物は、東北の三陸のあたりが一番取り引きが多かったんで、一気にダウンしました。そこからは悪い状態が続きましたね」 転機となった、2011年3月 未曾有の災害が起こった2011年の3月ですが、ちょうど同じ頃、中川政七商店さんによるコンサルティングがタダフサで始まり、新しいブランド『包丁工房タダフサ』を立ち上げることに。 「僕にとっては、震災が大きなきっかけでしたね」と曽根さん。 「やばい、自分でなんとかしないと、本当に会社が潰れる!という状態にまで追い込まれて。そこから本気になってブランディングに取り組んだ感じです。震災がなければ、たぶん『包丁工房タダフサ』はできてなかったし、自分と会社の将来を、そこまで深く考えられなかったんじゃないかと思います」 中川政七商店さんは、生活雑貨の販売のほか、工芸メーカーへのコンサルティング業も行っています。今では多数のブランディングを手掛ける中川さんですが、当時はまだ『包丁工房タダフサ』が2例目というタイミングでした。 「もともと三条市はモノ作りが盛んな町で、その鍛冶の火を絶やさないようにということで、当時の市長さんと一緒に立ち上がって始めた取り組みでした。おかげさまで、国内においては『包丁工房タダフサ』がどーんと(笑)圧倒的に、有名になりましたね」と曽根さん。 初心者も選びやすいラインナップ 包丁と一口に言っても、用途によって種類も素材も多く、素人ではどれを選んでいいか分からないものですが、『包丁工房タダフサ』は“基本の3本、次の1本”という考え方に基づき、7種類に絞って展開しています。包丁に詳しくない人でも、料理の腕前に合わせて選びやすいのがポイントです。この着眼点はどのような流れで生まれたのでしょうか。 「当時のブランディングでいうと、やはり既存の販路“じゃない”ところにも包丁を置いてもらいたいというのがあって。そのためには、分かりやすい仕組みがいるんじゃないかと」 “基本の3本、次の1本”という仕組みがあれば、刃物専門店のような詳しい知識がなくてもお客様に提案しやすい。つまり、今まで包丁を扱ってこなかった雑貨屋やアパレル店などでも販売しやすくなるのです。 「選びやすい、分かりやすいっていうのは、『包丁工房タダフサ』の魅力のひとつですね」 ブランドリリース後は販売店が驚くほど増え、売上も順調に回復。さらに、コロナ禍の「おうち需要」で包丁のニーズが高まり、今では過去最高の売上を更新するほどになりました。こう聞くと、なんともうらやましい話ですが、その裏で、意外な課題も発生したそうです。 ひとつに縛られないように 『包丁工房タダフサ』は7種類の包丁を展開していますが、これは逆に言えば、7種類で完結してしまうということ。 「ある意味、完璧なブランディングをしてしまったがゆえに、このブランドばかりやってると職人が育たないんですよ」と苦笑する曽根さん。 ずっと7種類の包丁だけ作っていると、毎日同じ製造に掛かりっきりになり、いくら職人さんでも飽きてくるのだとか。 「なので、『包丁工房タダフサ』とはちょっと違うものとして、海外のお客様向けの案件も積極的に手掛けています。それによって、常に同じ仕事じゃないっていう状況をなるべく作るようにしているんです」 国内と海外、なにが違う? 「国内と海外で、包丁のニーズは全然違うんですよ」と教えてくれた曽根さん。 国内で売れているのは、ほとんどが『包丁工房タダフサ』です。前述の通り、販路は雑貨屋やライフスタイルショップが中心。ここ10年ぐらい日本で続いている、優しいナチュラルなデザインのブームもブランドの後押しになっています。 「国内では、『錆びにくくて使いやすいですよ、メンテナンスは私たちがやりますよ』という形でやらせてもらっていて。ホームページも白ベースで打ち出しています」 一方、海外で重視されるのはとにかく切れ味。錆びやすいけど、よく切れる鋼の包丁が人気だそう。 「外国のお客さんに『錆びやすいけどいいの?』って聞いたら『包丁の本質は切れ味。切れ味が一番。錆びる、錆びないは二の次だよ』と言われました。彼らは『錆びたら研げばいいじゃん』っていう感覚なんですよ」 実はこれ、販路の違いも関係しています。日本は、刃物の専門店がどんどん無くなっていますが、海外は逆で、刃物の専門店が専門店としてちゃんと残っており、みんなそこで包丁を購入します。メンテナンスまでやってもらえるので、包丁は研ぎながら長く使うという意識が強いそう。 また、切れ味という機能性が重要視されるため、プロダクトとしてカッコいいものを求める人が多いとか。 「海外では、ホームページも思いっきり黒ベースで、『私たちは鍛冶屋です、ブラックスミス(英語で鍛冶屋の意味)です』って雰囲気にしています」 国内と海外では、まったく逆のブランディング。作られている包丁のクオリティはそれぞれ変わらないけれど、プロモーション、伝え方が全然違います。会社として、どちらも大事に、うまくバランスをとりながらやっていらっしゃるのは、すごく面白いなと思いました。 長く使うために大事な、研ぎ直し 包丁というのは、使えば使うほど切れ味が悪くなってしまいます。本来の能力を再び発揮させるには、メンテナンス、つまり“研ぎ直し”が必要です。タダフサでは、この研ぎ直しサービスも有料で行っています。 「売るっていうのももちろん大事なんですけど、うちは一本の包丁を大事に長く使ってほしいっていうのがモットーなんで、研ぎ直しに力を入れています。他社製品でも受け付けていますよ」と曽根さん。 国内の場合はタダフサが研ぎ直し対応できますが、海外の場合は難しい。そこで、海外の専門店と取り引きする際は、研ぎのメンテナンスができるかどうかちゃんと調べ、それが可能な専門店のみに販売しているそう。 「国内でも海外でも、うちの包丁を使ってくれるお客さんたちが、最終的にずっと満足できる状態をいかに作れるかっていうことを考えています」 売って終わり、売れればOKということではなく、そこから先までちゃんと寄り添ってくれるタダフサの姿勢は、消費者にとっても嬉しいですよね。 現場を見て、感じるイベントを 曽根さんが中川さんと一緒にブランディングを始めた際、『モノ作りの背景が透けて出るような仕組みがいる』と言われ、その言葉がすごく印象に残ったそうです。その後、いろんな人と会話をするなかで、曽根さんは「工場の祭典」というイベントの開催を思いつきます。 「当時の燕三条地域では、うちも含めて、それぞれの工場で工場見学をやってたんですよ。来てくれた人に現場を見せて、どういう風にモノが作られているか説明して、納得してもらう。結局はこれが一番手っ取り早くて分かりやすい。それならみんなにもっと産地まで来てもらって、どんどんこれを見せちゃえばいいじゃん、と」 現場を公開して、体験して、感じてもらう。作り手と使い手の距離を縮める、オープンファクトリーの取り組みです。これが大きな話題を呼びました。燕三条地域だけではなく、全国の作り手が「地方でもいろんなことができる」ということに気付いて動き始めたのです。 「ある地域でも同じようなイベントを始めたんですけど、それも前年に工場の祭典を見にきて、『パクります!』と堂々と宣言されて(笑)僕も『やれ、やれ!』って(笑)」 モノ作りのおもしろさが広がった、結果 このイベントは、燕三条地域にさらなる変化を生み出しました。工場の祭典をきっかけにして、モノ作りに魅せられた若者たちが「職人になりたい!」と訪れるようになったのです。 「やっぱりこれから地元の中でパイを取り合ってもしょうがないんで、いかに、東京や地方から引っ張ってくるかっていうのをやらないと、働き手が不足してしまう。工場の祭典を通して、あわよくばこっちで働いてもらう、移住してもらうっていう形に持っていきたいと意識してやっていました」 実際に私が各地のモノ作りを取材する中でも、こういうイベントを精力的にやっている産地は、若い働き手が増えているイメージがあります。単純にイベントの動員人数や売上が狙いというわけではなく、未来に向けての影響まで考えていたなんて、すごいですね。 次の世代に引き継いで タダフサは、曽根さん自身が35歳という、地元の中でも早いタイミングで社長になり、さまざまな改革を実施。若い働き手の獲得にも成功し、会社自体がとても良い循環でまわっています。しかし全国に目を向けると、モノ作りの産地では、職人や後継者などの高齢化が課題になっているところも。 「僕の座右の銘は『温故知新』って、ずっと言ってるんですけどね。やっぱり、昔からある技術の基本の基っていうのは大事です。でも、そこに至るプロセスって、新しい技術があるんなら変えたって全然いい」 「DX化もそうだし、新しい世代に向けてのアプローチとか、若い人にしかできない部分ってあると思うんですよ。どうしても“冒険”ってなったときに、お年寄りの方たちは冒険しにくい。カタカナ語で言われたところで、なに言ってんだ?てなるし・・・」 曽根さん自身も、今後は会社として大きくなるというより、「次の世代に渡すまでの余力みたいなものを作っておきたい」と語ります。 これからどうなるか分からない子どもたちの世代が、より変わりやすく、変わるのを恐れないような余力をつけておく。常に次を見据える曽根さんの視点は、とても勉強になりました。 包丁が生まれる現場へ ここからは、実際に包丁の製造現場をのぞいてみましょう。包丁の種類によって作業工程が異なるので、代表的な工程をざっくりとご紹介します。 ガス炉で800~900度に熱した鋼材を叩いていく「鍛造」という工程は、とにかく暑い! 夏の工場内は大変な暑さだそうです。 鋼材がみるみる形を変えていくさまは、迫力満点。ずっと見ていられる職人技! こちらは、金型で包丁の形に打ち抜いていく「型抜き」という作業。 高温で熱した後に生じた、曲がりや歪みを矯正する「歪取り」。わずかな歪みも見逃さず、職人さんが叩きながら微調整していきます。 包丁の肉厚や形状を均一に整えるために行う「研磨」。職人さんが表面を確認しながら、一本一本丁寧に行っていきます。一度だけではなく、製造工程の中で何度も何度も研磨されるので、良い包丁が生まれるのも納得です。 刃と柄の部分を接着し、ここからさらに研磨。持ち手の心地よさ、角のなめらかさ、そして刃と柄の接続部のなめらかさを作るために、複数の職人さんが時間をかけて完璧に仕上げていきます。 目指すのは、モノ作りのダイバーシティ 最後に、曽根さんに今後の展開や夢についてお伺いしました。 「燕三条地域がモノ作りの町っていうのは、ある意味評価された部分があるんですけど。それを世界から見たときにもしっかり評価される立ち位置に、いかに昇華させられるかっていうのが僕の今後のテーマかなと思っています。『困ったときは燕三条』『燕三条に行けば何かができる』と言われたい」 「それにともなって、職人を養成するっていうことも今後手掛けていきます。それは国内だけではなく海外からも人を受け入れる、モノ作りのダイバーシティみたいな感じ。外国人も男も女も関係なく、モノ作りしたい人が集まる町にしていきたいですね」 力強く語ってくれた曽根さん。 取材に伺う前は、やはり包丁の世界なんで、職人気質の社長さんなのかなと勝手にイメージしていたんですが、いい意味で真逆の、柔軟な社長さんでした。変わっていくことに、積極的な社長さんだからこそ、これからも快進撃が続いていくのでしょう。 長時間の取材にご協力いただき、ありがとうございました。 |
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タダフサの商品一覧
パン切り包丁
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万能包丁 三徳 170
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万能包丁 ペティ 125
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