ブランド紹介
匠工芸
日本有数の家具産地、北海道・旭川で、木製家具を作り続ける「匠工芸」。無垢材のあたたかさや美しさを生かしたオリジナル家具から、一つひとつ異なる要望に応える特注家具までを手掛けています。「つくっているのは、心地です。」を掲げ、使う人にとって美しく、心地よい家具を追求。機械の精度と職人の手仕事、それぞれの良さを生かし、作りやすさにとらわれない、こだわりの「ものづくり」を続けています。
匠工芸取材記
作りやすさより、美しさと心地よさを。
「あの椅子、気になる……」
初めて、匠工芸の椅子「YAMANAMI YC2」を見かけたとき、思わず目が吸い寄せられました。
近づいて触ってみると、背もたれや手すり、座面の裏まで、どこに触れても気持ちいいのです。気づけば、ずっと木肌をなでていました。
腰をおろすと、背もたれのあたり具合が絶妙で、手すりの長さもちょうどいい。
「この椅子、欲しいな」
自然とそう思いました。
なぜ、これほど惹かれるのだろう。
その理由が知りたくて、匠工芸の工場を訪ねました。
大雪山を望む丘にある「見てもらう」ための工場
匠工芸の工場は、北海道・東神楽町の小高い丘の上にあります。
天気のよい日には、ショールームの窓から大雪山を一望でき、周囲にはカラマツ林が広がります。
「気持ちのいい場所ですね」
そう伝えると、「この場所が選ばれたのには理由があるんです」と、匠工芸の新倉さんが教えてくださいました。
工場が現在の場所に移転したのは、およそ35年前。
創業者であり現会長の桑原 義彦さんは、「大雪山が見えること」「林があること」「小高い丘の上にあること」「水を感じられること」「空港に近いこと」を条件に、この場所を選んだそうです。
空港に近い場所を選んだのは、「お客さまに家具を作る現場も見てもらいたい」と考えていたからだそう。
「産業観光」という言葉が一般的ではなかった時代から、完成した家具だけでなく、職人の仕事ぶりや、家具が出来上がっていく様子も伝えようとしていたのです。
現在は、工場見学だけでなく、Instagramでも、職人さん自身が日々の仕事を撮影して発信しているそうです。
機械だけでは作れない。「心地よさ」を生み出す職人の手
ショールームや工場を見学しながら、匠工芸のものづくりについて、新倉さんに教えていただきました。
【美しいだけではない、機能的な曲線】
やわらかな弧を描くYC2の背もたれ。
「この背もたれの形、きれいですね」
そうお伝えすると、新倉さんが、YC2の特徴についてくわしく教えてくださいました。
「YC2で印象的なのが、背もたれの笠木(かさぎ)です。背中が当たる中央の断面は縦長の楕円ですが、ひじが当たる先端は横長の楕円になっています。
体が触れる場所に合わせて、少しずつなめらかに楕円の角度を変えているんです」
先端部分は、手をついたり、ひじを置いたりしても痛くなりにくいように、幅や長さを考えているそうです。
「笠木は、いろいろな体格の方の腰に合いやすい高さと丸みになっています」
「この曲線も、体のおさまりがよく、自然にフィットするんですよ」
きれいだと思って眺めていた形は、身体が触れたときの心地よさまで考えて作られていたのですね。
では、この複雑な曲線を、実際にどうやって作っているのでしょうか。
工場で加工の様子を見せていただきました。
【一瞬止まるだけでも、形が変わる】
「YC2の笠木は複雑な形状なので、現状の木工技術では、機械だけで仕上げられません」
と、新倉さん。
まずは機械で、大まかな形を削り出します。しかし、加工したばかりの表面には、刃物の跡や細かな凹凸が残っています。
「荒取りまではできますが、そのままでは到底使えません。そこからは職人の磨き上げる技術が必要になるんです」
職人さんが、少しずつ角度を変えながらサンダーをすべらせ、なめらかな曲線へと仕上げていきます。
「手すり付近の狭いカーブは本当に難しいんですよ。一瞬止まるだけで、形が変わってしまうんです」
削りが足りなければ機械の跡が残る。
しかし、削りすぎたり、途中で止まってしまったら、YC2ならではの曲線が崩れてしまうそうです。
しかも、目の前の一脚だけをきれいに仕上げればいいわけではありません。
「手仕事である以上、どうしてもわずかな個体差は生まれます。
それでも、大きく形が変わらないようにして、10年前に作ったYC2と、今日作ったYC2を並べたとき、同じ商品の椅子に見えるように作らないといけません」
【10年経っても、古さを感じない椅子】
YC2は、2014年から販売されている商品だそうです。
「10年以上前に生まれたんですか。新しい、古い、という感覚をあまり感じさせない形ですね」
そうお伝えすると、新倉さんがうなずきます。
「そうですね。これからも、定番として出し続けられる形だと思います。
『触っていて気持ちがいい』『ひじや腰のあたりが心地いい』と、多くの方に評価していただいていますので、YC2のよさを今後も大切にしていきたいですね」
【コンマ何ミリの先は、手の感覚で確かめる】
天然木は、一本ごとに色や木目が異なります。
椅子として組み上げたときに違和感が出ないよう、職人さんが確認しながら部材を組み合わせていきます。
組み立てでは、繊細な「手の感覚」が求められるそうです。
椅子の脚などを組み立てるときは、部材に開けた穴に「ほぞ」と呼ばれる突起を差し込んで固定します。
穴やほぞの加工には、コンマ何ミリ、コンマ何度という細かな精度が求められるとのこと。
サンプルを使いながら、新倉さんが説明してくださいました。
「不思議なもので、しっかりとはまったかどうかは、今のところ職人の感覚値でしか分かりません。数字だけでは判断できませんし、その日の湿度によっても変わるので。
組むときに接着剤を入れることまで考えて、『これくらいのきつさがいいかな』など、いろいろなことを考えながら加工します」
手仕事で培った感覚や経験は、機械加工をする際にも生かされているそうです。
「手で加工しながら考える経験と感覚が、機械加工の技術向上にもつながるんです。
うちの職人は国家検定の『家具手加工作業』も取るようにしているんですよ」
美しさのために、あえて難しい構造を選ぶ
YC2には、笠木のほかにも、職人さんの技術が欠かせない部分があります。
新倉さんが椅子の脚を指しながら教えてくださったのが、「四方転び(しほうころび)」という構造です。
「YC2は、脚が前後だけでなく、左右にも傾いています。四方向に転んでいるので、『四方転び』と呼ばれています」
見てみると、たしかに4本の脚がそれぞれ斜め外側に伸びています。
四方転びでは、角度がついた脚にほかの部材を組み合わせるため、穴を開ける位置や加工する角度も複雑になるそうです。
「それから、椅子は裏面を見ると仕上がりやクオリティが分かる、とよく言われます。
触っていただくと分かりますが、普段は触らないような裏面まで、しっかり仕上げています」
「こういった作り方はあまりしないものですか?」
そう尋ねると、
「面倒なので、あまりやらないと思いますね。加工も組み立ても難しくなりますし、失敗するリスクも高くなります。職人の中でも、ある程度年数を重ねた人しかできません」
と新倉さん。
では、なぜそこまでして四方転びにするのでしょうか。
「一番は、美しさですね」
返ってきた答えは、とてもシンプルでした。
四方転びにすることで、正面だけではなく、横や斜め、後ろから見ても脚に動きが生まれ、360度どこから見ても美しいプロポーションになるそうです。
作りやすい方法を選ぶのではなく、美しい形を実現するために、あえて難しい作り方を選ぶ。
YC2のすっと伸びる4本の脚にも、匠工芸のものづくりへの姿勢が表れていました。
「どう作るか」を考える仕事が、人を育てる
なぜ匠工芸では、手間がかかっても、美しさを優先したものづくりができるのでしょうか。
その背景を伺うと、創業者で、現在の会長である桑原さんにつながっていました。
桑原さん自身も家具職人で、若い頃には、技能五輪の世界大会で2位になった経験があるそうです。
そして、桑原さんが立ち上げた匠工芸は、もともと特注家具を手掛けるメーカーとして始まりました。
現在も、売上の約3割を特注品が占めているそうです。
定番品の場合、加工方法や工程がある程度決まっているため、効率化できる部分があります。
一方、特注品は素材や寸法などの条件が一つひとつ異なるため、「どう作るか」を職人さん自身が考える必要があります。
「特注品を作るということは、それだけ職人の勘や技術が求められるのですね」
そう伝えると、新倉さんは、特注品に取り組むことが職人の成長にもつながっている、と話してくださいました。
「難しい仕事に向き合い、自分で考える経験を重ねることで、職人としてできることが増えていくんです」
桑原さんのものづくりへの姿勢が、しっかりと受け継がれていることが伝わってきました。
「こんな椅子を作りたい」と、人が集まる
「うちに来る人は、ライン生産をしたくない、家具を自分で作りたい、という人が多いですね」
と、新倉さん。
匠工芸では、木材の加工だけでなく、研磨や塗装、座面に布や革を張る「椅子張り」など、家具が完成するまでの一連の仕事を自社で行っているそうです。
さまざまな作業をされている工場内をまわりながら、
「作る工程の一部分だけじゃなく、全体が見えることで、自分たちで作り上げているのを肌で感じられますね」
そうお伝えすると、「そうですね」と新倉さん。
「僕はYC2を見て、このような椅子を作っている会社なら、と入社を決めたんですよ」
と、新倉さん。
現在は、ご自宅でもYC2を愛用されているそうです。
初めて見たときから「欲しいな」と思っていたYC2は、新倉さんが匠工芸で働くきっかけになった椅子でした。
直して、また使える。見えないところまでこだわった作り
工場では、新しい家具を作るだけでなく、修理も行っています。
見せていただいたのは、居酒屋で7〜8年ほど使われ、張り替えや塗装のために戻ってきた椅子です。
長く使われた家具は、一脚ずつ状態が違います。
そのため、決められた箇所だけを直すのではなく、実物の状態を見ながら、職人さん自身が必要な修理や加工の判断をするそうです。
「『いい感じにやっておいて』みたいにざっくり伝えても、『ここも直したほうがいいな』と、職人が自分で判断して作業してくれます」
と、新倉さん。
別のレストランから戻ってきた椅子では、前脚が2本とも折れていたことも。
そのときは、新しい前脚を作り、取り付け直したそうです。
家具を最初から仕上げまで作る技術があるからこそ、傷んだ部材そのものを作り直せるのですね。
また、家具を作る段階から、いつか修理するときのことまで考えて作られているとのこと。
「ここは座面を付けてしまえば見えないんです。でも、張り替えるときには人が触る場所なので、痛くないようにきれいに仕上げています」
長く使える家具とは、壊れにくいだけでなく、傷んだときに直して、また使えるのだと感じました。
旭川という産地を元気にしたい
一つずつ木目や色合いを見極めて部材を選び、その日の木の状態に合わせて、コンマミリ単位の微調整をしながら削り、組み合わせていく。
「一つひとつ当たり前のようにされていることに、実は普通ではないことがたくさんあるんですね」
そう伝えると、新倉さんから次のような言葉が返ってきました。
「うちだけでなく、旭川は、特注品を作る技術や、プロから評価される技術力の高さが特徴の産地だと思います。
ほかの産地の方からも、『旭川はものの作りとデザインの良さが全然違う』と言っていただけますね」
また、競合でもある家具メーカー同士で、お互いの工場を見せ合い、学び合う関係なのだそうです。
「他の会社の営業の方やスタッフの方が、休みの日にうちの工場を見に来ることもありますし、僕らも社員みんなで他のメーカーさんの工場を見学したことがあります」
それだけではありません。
お客さまが探している家具を他社の方が得意としていれば、その会社を紹介するそう。
「たとえば、テレビボードを探している方に、『うちより、あちらのメーカーさんの方が得意ですよ』と紹介することもあります」
他社のこともよく知っていなければ、できないことです。
「それぞれの得意分野を、皆さんが認識されているんですね」と驚きました。
同じ産地のなかで、同業者がライバルとして競い合うのをよく耳にしますが、旭川は違うようです。
「すごいですね。産地としての一体感というか、協力する体制がしっかりあるんですね」
と伝えると、
「狭い地域の中で揉めていても仕方がない。みんなでやっていこう、という考えが昔からあるんです。
今でも、旭川家具工業協同組合が中心になって、みんなで仕事に取り組むことがあります」
たとえば、北海道日本ハムファイターズの本拠地「エスコンフィールド」の家具づくりを、旭川家具工業協同組合で受けて、各社が分担して製作したそうです。
互いに学び、それぞれの得意を生かし、ときには一緒にものを作る。
匠工芸のものづくりの背景には、「旭川家具」という産地の歴史とつながりがありました。
つくっているのは「心地」
最初にYC2を見たとき、なぜあれほど惹かれたのか。
匠工芸の工場を見せていただいて、その理由が分かりました。
作りやすさや効率だけを優先するのではなく、美しさや心地よさのために、技術を磨き、人の手を惜しまずかける。
「つくっているのは、心地です。」
匠工芸が掲げている言葉と、工場で見て聞いて感じたことが、すっとつながったように思います。
工場をあとにしてからも、YC2の心地よい木の感触が、手のひらに残っているような気がしました。
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