三重県四日市市で誕生した陶磁器のブランド「4th-market」は、今年で20周年をむかえます。
2度目の訪問となった今回は、ブランドの製品を手掛ける窯元のひとつである竹政製陶に伺いました。

前回の取材記 vol.1 はこちら
窯元が主体のブランド、4th-marketとは
2005年に三重県四日市市で生まれた4th-market は、その地元である「四日市」を英語で表して 「4th-market」と名付けられました。
また、ブランド名が持つもうひとつの由来は「4つの窯元から立ち上がったブランド」だから。
現在は体制を変えながら成長していますが、当初は向上心の高い4つの窯元で立ち上げたそうです。
さらにロゴマークは四日市の「四」をシンボルにデザインされているなど、地域性をとても大切にしたブランドであることを表しています。
世界遺産・上賀茂神社の前を通りすぎると、社家町(しゃけまち)と呼ばれる門前集落が見えてきます。国の重要伝統的建造物群保存地区に指定された、風情ある街並みです。取材に伺った日は35度と猛暑日でしたが、すぐそばを流れる川のせせらぎが涼しげで、時折吹き抜ける風が心地良く感じられます。

四日市市は、伝統工芸品にも指定されている「萬古焼(ばんこやき)」の産地です。
萬古焼の大きな特徴は、生地にペタライトと呼ばれる鉱物などを混ぜ込むことにより、製品に高い耐熱性をもたせていること。
その耐熱性を生かした、急須や土鍋が多く生産されていて、特に土鍋は国内シェアの約8割を誇ります。

そんな萬古焼の特徴を活かした食器や調理道具を、すべてオリジナルで手がけているのが4th-marketです。
「普段使い」をテーマに、シンプルながらスタイリッシュで、使うたびに愛着の増していくようなデザインや質感を大切にされているブランドです。
日本いいもの屋では、土鍋はもちろん、ごはん窯や調理器具、食器に保存容器など、さまざまな製品を取り扱っています。


今回は、そんな4th-marketの製品を手掛ける「竹政製陶」の5代目である竹内さんにお話を伺いました。
竹政製陶 代表取締役 竹内 理さん
江戸時代から続く萬古焼の変遷
国内シェアの約8割を占める土鍋や、伝統工芸品の急須で知られる萬古焼ですが、実は他にも様々な種類の製品が作られてきたそうです。
「萬古焼って元々は急須で始まってて、次の時代ぐらいが火鉢だったり、あと重箱だったりとか。その後ぐらいに、花瓶とかをたくさん作っている。その後が土鍋ぐらいなんですね。土鍋の後に並行して、洋食器のメーカーさんがかなりあって、たくさん作っていたんです。」
「 うち自体はこういう、 煎じ土瓶なんですけど。 漢方の。 こういうのが結構得意でずっと長くやっているので。これも今、作るところがあんまりないんです よ。」

煎じ土瓶とは、漢方などを煎じる際に使われる土瓶のことで、金属製のものとは違い漢方の成分に影響を与えずに煎じることができるそうです。
耐熱性が大きな強みである萬古焼ならではの製品ですね。
今回は、作業場を案内してくださる際に、土瓶の製造現場も見せてくださいました。
土瓶は、それぞれに成形されたつまみや注ぎ口の部分といったパーツを、本体にくっつける形で作られます。
その際に使用されるのが、土と水などを混ぜて液状にした「泥漿(でいしょう)」と呼ばれるものです。
接着剤のような働きをする泥漿ですが、焼き上げる際に収縮率の差で割れてしまうことを防ぐために、土瓶本体を作るものと同じ土を使用して作るそうです。
陶器のもの作りというのは、本当に繊細な作業の積み重ねなのだと感じました。
四日市の、地域性を活かした製品づくり
萬古焼の産地である四日市ですが、実は陶器の産地としては とても珍しい土地柄なのだそうです。
「 四日市はもともと土が取れない産地なので、すごく特殊なんですよね。他の産地と比べても、海沿いにあるっていうのもすごく珍しい。陶器の産地って基本は、山の中にしかなくて、いい土が取れて、登り窯がある。四日市の場合は、もうここからすぐ近くが海なので。」
意外にも、多くの産地が持っている環境の条件を 四日市という地域は満たしていないのだそうです。
ではなぜこの萬古焼が、四日市という地域でこれほど長く続いてこられたのでしょうか。
「土が取れないので、耐熱とか、こういう土を作るんです。世界中から原材料を集めるんですよね。それで、半磁器とかも作ったりする。なので、なにかある程度新しいことやってみても、 そんなにみんな違和感がないというか。」
「原材料も集めやすかったんですよね、港が近くなので。すぐ仕入れて、港で下ろして、すぐそこの駅まで全部貨物で運んで。引き込み船があって下ろして、そこにできたやつを乗せて、今度はまた港まで運ぶっていう のでやってたみたいです。」

土が豊富に取れる土地ではなくても、世界中から原材料を集めて、土に混ぜて、新たな土を作る。
ペタライトを含ませることによって陶器に耐熱性を持たせたり、時代の変化に合わせて新たに半磁器を作り出して、研究を重ねる。
萬古焼に多種多様な焼き物があるのは、四日市の土地柄に加え、職人さん達のたえまぬ努力と工夫の賜物なんですね。
変化していく環境
近年は電気やガスといった燃料費の高騰など、製造に直接かかわる環境の変化も多くあると言います。

写真の大きなガスタンクでも、焼窯一基をたった1度動かすだけで全て消費してしまうそうです。
少し燃料費が上がるだけでも、製造に大きな影響を与えるだろうということがよくわかります。
また、陶器に耐熱性を持たせるために重要なペタライトに関しても、近年は大きな変化が起こっているそうです。
「ペタライトっていう耐熱陶器を作るのに重要な鉱石が、手に入りにくくなってるんです。
もともとは、アフリカのジンバブエで産出しているペタライトを輸入して、四日市で加工して使ってたんですけど、そのジンバブエの鉱山が中国の企業に買われてしまって。」
「最初はなんでそんなところを?って、わからなかったんですけど、ペタライトの中には リチウムが 含まれているんですよ。電気自動車は リチウム電池を使うじゃないですか。 それが理由だったと。」
耐熱性を持たせるために必要なペタライトという鉱石は、その中に含まれるリチウムを目的とした企業が、産地の鉱山を買い取ったことにより入手困難に。
「当初は日本にペタライトも全然入ってこなくて。今はちょっと電気自動車産業自体が落ち着いてきたので、「ペタライト自体は売ろう」と企業側がなってきた。ただ、いかんせん値段が高くて、ペタライト単体で以前の8倍ぐらいします。」
ペタライトを入手すること自体は可能になってきたとはいえ、その値段は当初の8倍程度にまで高騰していて、今後も安定的に入手できるのかは分からないそうです。
今のところ、四日市では他の産地にくらべて、必要程度の量は確保できていらっしゃるとのことで、時には瀬戸などの他の産地にペタライトを供給することもあるそうです。
「他の原材料にも、いろいろと問題があることもある。そこは、産地間で情報共有しつつ、一緒に。」
加盟する「日本陶磁器工業協同組合連合会」には、瀬戸や美濃、常滑などといった全国の有名な産地が参加しています。
互いに協力しながら、県や国に対して問題解決にむけての働きかけを行っていて、ペタライトの入手に関してはついに国会でも取り上げられたそうです。
「多分初めてじゃないですか?国会で“ペタライト”って単語が言われたのは。(笑)」
変わらない良さと、チャレンジする楽しさ
4th-marketが「普段使い」をテーマにしたブランドとして誕生してから、20年が経ちます。
ブランドとしての変化はあるのでしょうか。
「普通は採用しないチャレンジングなものや、長く使っていただけるロングライフな商品を作り続けたいっていうのが4th-marketのコンセプトとしてあるので、そこは変わっていない。」
メーカーブランドだからこそできる、手間ひまをかけた、長く愛されるもの作りへの姿勢は変わっていません。

「ただ、同じものをずっと作り続けたいっていう反面、 やっぱり時代にあったものを作りたいっていうのもあるので。なのでこの煎じ土瓶って、 もう60年以上作ってるんですけど、こういう“ロングライフデザイン”と言われるようなものを作り上げていくことが、今の4th-marketとしても目標 になると思いますね。 いいの、作りたいですけどね。」

そう言って見せてくださった煎じ土瓶は、竹政製陶の3代目の時に誕生してから約60年もの間変わることなく受け継がれている、まさにロングセラー商品だそう。
そんな「変わらずにずっと愛されるもの」を、新たに作りたいと話してくださいました。
「コロナ禍でだいぶ生活パターンも変わったりとかがあって、 私たち生産者側も結構変わったりしているので、そこにうまくマッチングできるような新しい商品を作りたいというのもあるんです。 」
「やっぱり年代によってその生活スタイルっていろいろ変わってくると思うんですよ。
今の課題としては、こっちの経営側だったりデザイナー側が年も重ねてきているので、その新しいライフスタイルに合う製品をいかにリリースできるか、作り上げていくかっていうところになりますね。」
変化していくライフスタイルに合わせて、必要となる道具も変わっていくもの。
日常の生活にとけこむような商品作りにも、「新たなカテゴリー」が登場するなどの変化が起こります。
4th-marketの手がける「ご飯釜」もそのひとつです。

「実は、自分たちの中では土鍋でご飯が炊けることは当たり前だったので、“ご飯釜”の必要性に思い至っていなかったんです。でも、みなさんのなかに土鍋でご飯を炊くっていうイメージが定着していないので、だったらごはん専用の“ご飯釜”をつくれば、生活に浸透していくんじゃないかって。」
今では生活にじんわりと浸透してきているご飯窯ですが、「土鍋」のままではなかなか敷居が高く、手を出し辛かった人もいたのかもしれません。
それが「ご飯釜」として商品化されていると、「ご飯を炊くためのものなんだ、だったら手軽に炊くことができるのかも!」と考えて手にとる人も多いのかもしれません。
やっぱり、お鍋で炊いたご飯はおいしい。
「ご飯釜」をきっかけに、あらためてその美味しさに気づく人が増えていけばいいですよね。
信念や“真ん中”がない商品は、選ばれない

生産現場で日々思考しながら生み出される4th-marketの商品は、労力のかかるものが多いと言います。
例えば、商品のコンセプトをもとに釉薬メーカーとオリジナルで開発した釉薬を使用していたり、その絶妙な色合いや質感にこだわりを持って制作されています。
「 “好きな商品をずっと長く作ることができるように”というのが、4th-marketの始まりでもあるんです。自分たちのブランドだったら、自分たちが飽きるまで、商品としてリリースできるよね。職人さんに、手間暇かけていいよって言えるよね、と。」
「新しいものを生み出すことは大変だけど、そこが面白いと思ってやれるかどうかだと思います。手間ひまかけると、めんどくさいなぁと思うこともある。でも、お客さんの反応がいいと、その商品好きになるんですよね。ええなこの商品っていうふうに。あんな文句言ってたのにみたいな。(笑)」
職人さんがやりがいを持って製品づくりに取り組める環境があれば、そのモチベーションが創作意欲に繋がっていきます。
4th-marketでは、労力がかかっても、まさに自分たちがチャレンジしたいものに取り組んでいるんですと話してくださいました。
目指していくもの
竹内さんの家訓には「一生一品」というものがあるそうです。
「一生のうちに、後世に残るいい品を一品でもいいから作るっていう。私としても、この先そういう、残せる商品を作りたい。」

「毎日使う マグカップって、大体みんな決まっちゃうんですよね。
家にあるもの何個かのうち、自分のって名前が書いてあるわけじゃないのに、そのマグカップ持ってきて朝飲み物を入れる。あれってやっぱり、感覚なんだと思うんですよね。」
「その持った感じだったり、口触りだったり、手の大きさでも感じ方が違う。違うマグカップを使うと、朝から、なんかちょっと違う…みたいな感じになるので。それに合うような商品の作り方ができるようになると面白いなって思うんですよ 。」
難しさはあるけれど、誰が持っても「めちゃくちゃ良い!」ってなるような、例えば“究極のマグカップ”が作れたら面白いですよね、と笑って話してくださいました。
日々変化し続けるライフスタイルに溶け込みながらも、その技術力やこだわりのデザインによって、毎日の暮らしに色どりをあたえてくれる4th-marketの製品。
作り手のみなさんの想いをのせた製品を、これからも心待ちにしたいと思います。